2012年4月22日

創菜旬魚 はしもと|南三陸さんさん商店街


創菜旬魚 はしもと|南三陸さんさん商店街
「はしもと」オーナー兼料理人の及川満さん(左)と、ホール担当の佐藤仁さん(右)。

手作りの店内でゆっくり楽しむ、宮城の地酒と海鮮料理。


創菜旬魚 はしもと|南三陸さんさん商店街
「はしもと」の店内。仮設とは思えない落ち着いた内観が魅力だ。
2011年3月11日。大地震とともに発生した大津波により私たちの町「南三陸町」はかつての面影を失い、町民全ての希望が絶たれた。深い悲しみの一夜を抜け、待っていたのは想像を絶する現実。それでも南三陸町民は自分を奮い起こし仮設住宅と仕事場を行き交う。この一年間、町のどこへ行っても“思い出の場所”が失われた私達に「憩の場所」ができたのは2012年2月25日の事だった。見慣れた看板、懐かしい声。震災前南三陸町にお店を構えていた店や、新しく出店する店30店舗が軒を連ねる“南三陸さんさん商店街”。 商店街の中心を取り囲むように並ぶ食事処、その一角に及川満さんが店主を務める「創菜旬魚はしもと」がある。驚くのはその内観だ。中に入るとまるで仮設店舗とは思えない程、落ち着いた雰囲気が漂う。そしてそれら全ては及川さんやスタッフ、友人達の手作りだと言う。JAZZが流れ、仮設店舗を忘れる程の落ち着いた店内には、ご主人のある思いが詰まっていた。
創菜旬魚 はしもと|南三陸さんさん商店街
厳選した宮城の地酒もたっぷり楽しめる
「仕事場が仮設。家へ帰って一息つくのも仮設。どこへ行ってもこの町は仮設ばかりで気が滅入ってしまう。食事をする時くらいは、震災を忘れゆっくり楽しんでほしい。だから内装には特に力を入れました」。現在、仮設住宅で暮らすご主人には仮設住宅での生活の辛さが身に染みて感じる。だからこそ内装にかける想いが強かった。「はしもと」で使われる食材は、できるだけ南三陸町産のものを使うよう心がけている。「震災から1年が経ちましたが、震災前と比べまだまだ地元産の食材だけで賄うのは難しいのが現状です。これから少しずつ復興へ向かう中で、海や山の食材も増えて行くでしょう。やっぱりできる限り南三陸町で採れた新鮮なものを使いたい。」調理師学校卒業後、仙台や気仙沼で15年以上料理の経験を積んだご主人から作り出される料理は力強くとても美しい。




創菜旬魚 はしもと|南三陸さんさん商店街
「はしもと」店主の及川満さん(38)
全国の方々のご支援で、今の自分がいる。だから頑張り続けたい。

「はしもと」のご主人である及川さんが料理の道を志したのは高校生の時だった。「食べるのが好きだったし、何かを創作する事が好きだったから。」そんなご主人が創作する料理は、遊び心が詰まった逸品ばかり。まずは目でたっぷりと楽しませてくれる。味付けも東北らしからず実に繊細である。震災後の混乱の中"自分のお店を持つ”夢を一度は諦めたものの「さんさん商店街」へのオファーがきた時には「やるしかない。今、やらねば。」そう自分自身を奮い立たせた。出店が決まってからは早朝から深夜まで寝る間を削って準備に追われる毎日だったという。冷蔵庫や鍋、器等は全国各地からの支援で頂いたもの。「本当に感謝の一言でした。全国の方々からのご支援、友人の応援が無かったら今私は絶対にここにいません。私には料理で恩返しすることしかできないけど、南三陸町が元気であることを料理を通して伝え続けたい。ご支援頂いた方々には、本当に感謝しきれない思いで一杯です。そのご恩に報いるためにも頑張り続けたい。」取材中に何度も出てきた「感謝」という言葉。一度諦めかけた夢を形にし、懸命に生きる彼の目はキラキラ輝いていた。



創菜旬魚 はしもと|南三陸さんさん商店街
創菜旬魚 はしもとの
「キラキラ海鮮丼」

南三陸町のほぼすべての飲食店がメニューとして掲げているのが震災前の人気商品だった「南三陸キラキラ丼」。震災後、そのキラキラ丼が「さんさん商店街」のオープンと共にようやく復活を遂げた。全国一の水揚げを記録した事もある南三陸産天然秋鮭のイクラや、その日志津川漁港に水揚げされた新鮮な魚介類、名産のタコがたっぷりとのった贅沢な丼。新鮮な海の幸ならではの上質な脂、お醤油を垂らし豪快に食べるも良し、ボリュームもたっぷりで男性も満足の逸品だ。南三陸を訪れる観光客やボランティアの方々がこぞって注文する大人気の逸品は見た目も鮮やか。これを食べずして南三陸は語れない。キリッと冷やした宮城の地酒と共に楽しみたい。この他に季節のお味噌汁とお新香が付く。

キラキラ海鮮丼 1,580円


創菜旬魚 はしもとの「刺身盛り合わせ」

夜がメインの「はしもと」でこぞって注文されるのがこの「刺身盛り合わせ」。味もさることながら主人の遊び心が伺える盛りつけで女性客にも大人気の逸品。地元宮城の地酒や焼酎等、お酒も豊富に取り揃えてある。宴会コースもあり、予算に応じて旬の味を味わうことができる。プラス2000円で飲み放題(生ビールを除く)というのも嬉しい。

刺身盛り合わせ 1,980円〜


3.11 あの日の記憶

「まるで映画を見ているようでした。」あの日、及川さんは勤め先だった高台のホテルから一部始終を見ていた。体感した事のない揺れが続いた後、思わず海を見続けた。それは想像を絶する光景だった。引き波が1キロ以上も続いた直後、防波堤を遥かに超える大津波が一気に南三陸の町を目がけて襲いかかった。海は引き潮と津波とで渦を巻き、津波に襲われた町は土煙に覆われホテルから見えなくなった。そして南三陸の空は雪で真っ白になっていた。震災以前、そこから眺める景色はどこにも負けない景色だった。広大な太平洋、港町の営みを一望するホテルからの景観。ウミネコの鳴き声。何度見ても見とれてしまうほどの景色が、あの日は目を逸らす程の地獄絵図だった。数日間ホテルでお客様のお世話にあたった。その後、初めて高台から町へ降り目にした光景に言葉も出なかったという。町の営みは影も形もなくなり、瓦礫だけが残っていた。あまりにも絶望的な現実に、お店を出す夢や希望も絶たれた。家がない、生まれ育った町がない。そんな中で夢を見るにはあまりにも儚かった。


創菜旬魚 はしもと|南三陸さんさん商店街
創菜旬魚「はしもと」
(南三陸町さんさん商店街)
登米方面から国道398号線を上り、南三陸町中心部へ向かう途中に、被災地最大の面積を誇り30店舗が軒を連ねる「南三陸町さんさん商店街」が見えてくる。

〒986-0766
宮城県本吉郡南三陸町御前下59-1
TEL:0226-29-6343
営業時間:(昼)11:30〜15:00 ラストオーダー14:00
(夜)17:30~22:30 ラストオーダー 22:00
定休日:火曜日
駐車場:100台(さんさん商店街駐車場)



創菜旬魚「はしもと」へのアクセス

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Text = SHOKO.S(Progress南三陸 編集部) Photo = K.Yamauchi(Progress南三陸 編集長) 取材日 2012年4月19日